大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2500号 判決 1976年5月27日

公福不動産証券株式会社こと

控訴人

松本美夫

右訴訟代理人

渡辺靖一

ほか一名

被控訴人

寺山敦子

主文

原判決及び本件手形判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一控訴人が本件手形の振出人欄に「公福不動産証券株式会社代表取締役松本美夫」と記載して本件手形を振り出した事実及び公福不動産証券株式会社が昭和四八年四月一七日その商号を日本ユニゲル株式会社と変更した事実は当事者間に争いがな<い。>

控訴人は、本件手形は昭和四八年四月一五日公福不動産証券株式会社が振り出したものであると抗争するところ、本件手形(甲第一号証)には振出日として昭和四九年四月一日との記載があるけれども、<証拠>によると、本件手形は、昭和四八年四月一五日、当時公福不動産証券株式会社の代表取締役であつた控訴人が同会社の代表者として小林圓文の求めに応じて融資の目的で本件手形を含む一七通の約束手形につき額面を各金三〇〇万円と記載し、振出日、満期及び受取人を白地とし上記の事項についてその補充権を付与して右小林に振出交付したものの一通であつて、その振出日については本件手形の振出交付を受けた小林圓文が甲第一号証記載のように記入した事実が認められ、他に右の認定を覆えすに足る証拠もないので、本件手形の振出日欄に記載された日付けは真実の振出日を表示したものとは認めることができないから、甲第一号証の振出日欄の記載日をもつて本件手形が振り出された日と認めることはできない。右の認定の事実によると、本件手形は昭和四八年四月一五日当時公福不動産証券株式会社の代表取締役であつた控訴人が同会社の代表者として小林圓文に振出交付したものであるから、本件手形によつて手形債務を負担するのは右会社であつて控訴人個人ではない。ところで、右公福不動産証券株式会社が昭和四八年四月一七日その商号を日本ユニゲル株式会社と変更したことは当事者間に争いがなく、<証拠>によると、右商号変更の登記が同月二四日になされていること、右公福不動産証券株式会社の代表取締役であつた控訴人は同月一七日代表取締役を辞任し、同日佐久間信栄が代表取締役に就任し、いずれも同月二四日その旨の登記がなされている事実が認められ、本件手形の振出日欄に記載された日付である昭和四九年四月一日には控訴人は公福不動産証券株式会社の代表取締役でなく、かつ同会社の商号も日本ユニゲル株式会社に変更されていて右振出日欄記載の振出日を基準とすれば一見控訴人は商号変更によつて既に存在しなくなつた旧商号名義の株式会社の代表取締役として本件手形を振り出したものであつて恰かも振出人はむしろ控訴人個人と解するのを相当とするような外観を呈し、而して元来文言証券である手形上の法律関係はその実質の如何にかゝわらずその文言に従つてこれを決すべきものであり、かつまた手形の振出日も手形金額、満期、振出人、受取人等に関する事項と共に手形要件として手形上の権利行使の要件としてその記載は不可欠の要件ではあるけれども、振出日の記載は他の手形要件の記載と異なり日付後定期払手形のような満期を定めるために必要な記載である特殊の場合を除いては、その記載が実際の振出日と異るときは、手形上の権利関係であつてもその法律関係はその記載の日付によつてこれを決すべきではなくその実際の日付によつてこれを決すべく、すなわち実際の振出人が何人であるか、あるいは振出人の能力、代理人の代理権、代表者の代表権の有無等は手形面に記載された振出しの日付の日時を基準としてではなく、実際に手形が振り出された日時を基準としてこれを決定すべきものであつて、手形に記載された振出しの日付けは、その日に事実上振出しがあつたことを一応推定させる資料となるに止まる。従つて、その手形が振出日の記載と異なつた日に振り出された事実が反証により証明された場合には、その手形が実際に振り出された日を基準として実際の振出人が何人であるかを決定し、これにより手形上の債務を負担する者を定むべきであつて、このことは手形が会社の代表者名義をもつて振出交付されるにあたつて振出日付の記載を欠き、その後これが記載された場合においても、振出人において自己が将来代表権を失なつた場合に個人として責任を負う趣旨でとくに振出しの日付けを記載しなかつた等の特段の事情が認められないかぎり、異なるものでないと解すべきところ、本件手形は満期を白地として振り出された確定日払いの手形であり、右の特段の事情の認められない本件においては、本件手形の振出人としての責任は公福不動産証券株式会社が商号を変更をした日本ユニゲル株式会社が負うものであつて、控訴人が個人として責任を負うべきものではないから、控訴人のこの点に関する抗弁は理由がある。

右によると、被控訴人の控訴人に対し本件手形金の支払いを求める本訴請求は理由はない。

二《省略》

(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例